銀行の借金肩代わりは世の中に何も生み出さない話

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住宅ローンの借換が流行っています。

借換とは、住宅ローン等の借入先を変える(肩代わりともいいます)ことで、固定金利が高い時期に住宅ローンを組んだ人が、現状の低金利のメリットを享受できるってやつです。

5年以上前に住宅ローンを組んだ人だと10年固定で2%を越える金利で契約している場合もあります。今だと1.2%前後で借りられるから、将来の総支払利息額が半分になるケースもざらです。個人で高金利のままなら借り換えしない理由は見当たりませんが…

 一方で、法人向けの融資金の肩代わりも勢いを増しています

銀行は今融資先が少なくて困っています。設備投資需要がないからです。円安も進行して景気が見渡せないので新規投資に企業は及び腰になっています。

 

銀行にとって、貸出の残高を伸ばすことは至上命題です。銀行のストックである貸出金は返済により日々減っています。新たに貸し出すというアクションを起こさなければ飯の種がなくなってしまいます。

 

手っ取り早く貸出残高を増やすには、他行で借りている借入金の肩代わりが最も手っ取り早いです。一粒で二度美味しい。それは以下の理由によります。

 

1.審査がある程度簡略化できる

肩代わりをするだけの借入があるということは、そのお金はある程度信用があったから借りられるわけです。「○○銀行が金を貸してるなら大丈夫だろう」といやつです。

その借入金を借りてからの会社の事業実績も、もうわかっています。新規融資よりも安全です。こうすれば行内の稟議書の組立がある程度簡単になります。融資担当者としても採り上げやすいです。

 

2.地域内の貸出金シェアを奪える

銀行経営者が気にしている指標のひとつに地域内シェアがあります。

X地区は当行の貸出金シェア○○%、B銀行が○○%・・・てな具合に半年に一回くらいシェアが公表されます。銀行の役員はこのシェアの増減に目を光らせています。

新規設備融資を1億円行った場合では地域内シェアへの影響は1億円ですが、1億円の肩代わりなら、2億円の効果があります。おいしいです。

 

こんなにおいしい借入金の肩代わりですが、私は大キライでした。

 

理由は・・・

借入金の肩代わりは世の中に何も生み出さない

例えば、工場の製造ラインの新規設備投資があったとすれば、その地域の「資産」が増えます。その製造ラインを使って工業製品を生産するとなれば従業員を雇用しなければなりません。

その従業員はお弁当を食べます、お弁当をその工場に届けるために、他のお弁当工場の生産ラインが増える・・・といったように一つの設備投資で、域内の経済活動が活性化されます。

肩代わりの資金の場合はそれがありません。地域内における「資産」の変動は起きません。この場合銀行は地域に対して何も生み出していないと思います。

(借換によって金利負担が減れば余剰キャッシュが生まれるという議論もあるかと思いますが、現金自体は何も生み出さないので考慮に入れませんでした)

 

取引先と長期的な関係を築きにくくなる

取引先が法人の場合は、銀行との長年の取引実績がいざというときに役に立つこともあります。会社は業績が良いときもあれば悪化することもあります(まあ大体不景気の時は銀行の業績も悪化しているんですが)。

それでも長年融資取引がある会社に対しては、銀行もそれなりの目線で対応します。なのに、肩代わりが起きると一気に信頼関係が崩れます。

 

☆☆

 

私も銀行員時代は肩代わりによる貸出金増強に躍起になっていました。

 

3月の期末、融資担当者は貸出金増強の最後の追い込みに入ります。

手っ取り早いのは他行肩代わり。既存取引先から頂いている決算書を片っ端から開いて、他行の借入額や金利、不動産担保などの借入条件を再確認して、少しでも金利が高かったり、条件が悪ければ自行で借換してもらえるように、少しでも上積みをはかれないか画策するのです。この低金利ですから、利率は爆安、固定金利で対応します。

 

借入金を肩代わりされる銀行にばれると、肩代わりを阻止される可能性がありますので、社長とこっそり他行肩代わりの交渉を進めるのです。なんか悪いことしているみたいですね。

 

せっかく肩代わりをするなら、金額が大きい方が良いです。銀行は100万円貸し出すのも、100億円貸し出すのも基本的に同じ稟議内容になります。手間はほぼ一緒。同じ苦労をするなら、金額が大きい方が成果になるんです。

 

3月末までに融資を実行しなければ成果になりませんから、稟議もスピードが要求されます。ここでは社長(経理実権者)と、実際の融資契約締結という「ゴール」に向けていかにコミットしているかが肝です。肩代わりにおいては社長は正直「いつやってもいい」と思っていますから。

 

通常の場合、資金が必要な場合は買掛金などの支払期限リミットが決まっており「早く融資が決裁されないかなー」とソワソワするかと思うのですが、肩代わりの場合は会社にとっての金利負担が減るだけであり、金銭的な焦りがないため「なんとしても3月末までに肩代わり融資を実行する!」という温度感を共有しないと、他行肩代わりは絶対に成功しません。

 

そうこうしながら融資は無事3月中にめでたく実行して、4月に入ります。

 

融資の御礼のため会社を訪問したりすると、取引先から「この間お金返した○○銀行の担当者、飛ばされちゃったのよねー」なんて話が出るわけです。経理担当だって人間ですから、その飛ばされてしまった担当者とも、会社の将来を踏まえた資金のやりとりをしているはずなんです。経理担当者も残念に思っているはず。だけれどもこの辺の担当者に対する人事評価に銀行はシビアです。

 

被肩代わり(借入金を肩代わりをけしかけられて、まんまと自行の借入が返済されてしまうこと)が起きると、当社の担当者は支店長、融資課長からの叱責、人事評価だだ下がりです。同じ銀行員として気の毒でなりません。

 

私自身は結構な肩代わり資金を在職中に実行しましたが、、、本当にラッキーなことに肩代わりをされたことはありませんでした。危なかったことはありますが…。

 

☆☆☆

 

今はそんなことを考えますが、銀行在職中はほとんどそんなことは考えなかったと思いますね。まあ、このあたりのシェアの奪い合いは銀行に限らずどこもあるとは思うのですが。

 

まとめ

・銀行にとって借金の借換は二度美味しい

・住宅ローンとか個人向けなら家計収支に大きな影響をがあるのでやるべき

・法人の借金借換は地域にとっては何も生んでいない

 

捨てられる銀行 (講談社現代新書)

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