【2023年】銀行員による決算書の見方〜新入行員・中小企業の社長のため評価ポイントをまとめました!

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銀行融資の大切な仕事のひとつとして、取引先企業の決算書分析があります。

銀行では中小企業から提出される決算書を使って融資ができるか、できないかを判断します。新入行員から出納窓口や渉外係などのキャリアを積んでいくと、いつかは法人向けの融資をしなければならなくなりますが、決算書の見方は戦う武器として最低限装備したいものです。

ぼくが銀行員時代に決算書をみる際、特に気をつけていたことをまとめました。

あまりに長いので、Day1〜Day5と5日間のラーニング形式にしております。

ご活用いただければ幸いです。

 Day1. みるべきポイントは3つだけ!

社長から決算書を手渡された瞬間にこのシリーズが役立ちます

最初に断言します。融資初心者の方が最初にぶつかる壁は、中小企業の社長から1年間の会社の成果が記された決算書を受け取る瞬間です。多くの中小企業の経営者は、会社の1年の成果物を、直接入社数年の若手担当者に直接手渡しています。それなのにただ黙って決算書を受け取っていませんか。融資担当者は、決算内容が良い内容でも悪い内容でも、臨機応変に自分なりのコメントをしなければ担当者失格です。社長も相当の緊張感を持って銀行に決算書を開示しています。誠意をもって応対しましょう。

 

中小企業を相手にする銀行の見方は教科書とちょっと違う

銀行はさまざまな研修が充実している会社です。取り扱う商品が膨大でなおかつお金を扱わなければなりませんから、覚えることも膨大なためです。

当然法人向け融資の研修もあるのですが、研修内容は難解かつ教科書的で実践で役に立たないことがほとんどです。なぜなら、多くの決算書の教科書は財務分析を中心に作られているからです。簿記やFP、銀行業務検定等の勉強すると「流動比率」「自己資本比率」「インタレスト・カバレッジ・レシオ」等の言葉が飛び交いますが、その言葉自体や計算式を覚えたところで実務ではほとんど使いません。決算書の数値は銀行内のコンピュータに自動で取り込まれ、参照しようと思えばすぐに確認できるからです。

実際の社長とのコミュニケーションの場で瞬時に活きるワザを身につけましょう。

要は貸せるか貸せないかを判断できれば良いのです。銀行員は分析家ではありません。倒産しない健全な企業に、適切な融資を行うことができればいいのです。

 

見るべきポイントはここだけ!「表紙」、「貸借対照表」、「損益計算書」

銀行が融資先から提供を受けるいわゆる「決算書」とは、「決算書報告書」の表記がある冊子に加え「確定申告書類(別紙を含む一式)」「決算書科目明細書」「固定資産明細表」等多岐に渡ります。お客さんに「銀行さん、決算書はどこまで提出すればいいの?」と言われたら上記書類を依頼して下さい。要するに、銀行としては総勘定元帳以外全部欲しいです。

最初は書類の枚数が膨大で訳が分からないと思いますので、まずは「決算書」の冊子にある「表紙」「貸借対照表」「損益計算書」の3つの書類を覚えていきましょう。

 

「表紙」の見方

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意外と大切なのが決算書の表紙です。フォーマットは様々ですがここには「会社決算は何期目なのか(例:第●●期)」「決算期はいつなのか(例:平成26年4月1日〜平成27年3月31日が事業期間の会社であれば決算期は3月)」「商号(会社名)」の情報が載っています。

 

何期目かを知ることでおおよその業歴がすぐに分かります。

3期目であれば創業間もないということになりますし、47期目であれば、業歴が長く安定してそうとか、この社長は創業二代目の社長なのでは?等です。

融資先の決算期をみれば「お願いセールス」ができる会社かどうかの判断ができます。

いきなりこのような話で恐縮ですが、銀行自体の決算は3月31日であることが多いです。その場合、半期決算の締めは3月と9月ですので、もし融資先の決算期とかぶってしまうと、銀行が融資残高を積み上げたい期末に、融資提案ができない恐れがあります。融資先は、できれば借入金は減らして財務内容をスリムにして決算を迎えたいからです。

このルールを知っておくと、無知なまま決算期が3月や9月の会社に対し誤って融資提案をして「××銀行は自分たちの利益ばかり考えている」と評判を落とすこともなくなります。

そして、商号(会社名)です。

一目見てどのような事業を行っているのか分かる会社もあれば、そうでない会社もあると思います。言うまでもなく社名は会社を会社たらしめる大切なものです。しかし、融資担当歴が慣れてくるほど、担当先の社名の由来について深く聞くことがなくなっていきます。初心者のうち、あるいは赴任して間もない頃でないと、社名の由来は聞きづらくなりますので、決算報告の場で話してみるのも良いと思います。

 

Day2. かんたん!貸借対照表のみかた

貸借対照表は3つの書類の中で最も大切な書類です

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(画像の数字は適当です。すみません。)

決算書は、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表、キャッシュフロー計算書(中小企業の決算書ではあまりみられませんが)等で構成されていますが、その中でも最も大切なのは貸借対照表です。
初心者のうちは貸借対照表はスムーズに頭に入ってきません。それは、損益計算書が大変分かりやすい構造になっているため、どうしても損益計算書を中心に決算内容を考えてしまうからです。
新聞の見出しなどに「●●自動車、増収増益」「▲▲電機、減収減益」と書かれている記事を目にするのも一因としてあると思います。損益計算書も大切ですが、融資担当者として大切にしたいのはあくまで貸借対照表です。新聞に載るような会社の損益は投資家のための情報です。
貸借対照表も見ずに、損益計算書をすぐにに見て、「社長!売上も伸びて増収増益で黒字ですね!」などのコメントをしてしまう担当者になってはダメです。(決算内容がよければ社長も嬉しいのかも知れませんが…)

貸借対照表については分かりやすく解説する本もありますが、初心者のうちはそれでも分かりづらいのは事実かと思います。ですので、突然決算書の受領を命ぜられても、少しでも内容がわかるように、これから以下の通り色分けをして、見方を解説していきます。

流動資産、固定資産、流動負債、固定資産の4つにわけるだけ!

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「流動資産」「固定資産」「流動負債」「固定負債」のそれぞれの合計が貸借対照表を理解するポイントになります。融資先の企業に決算書受領のために訪問して、社長から決算書を受け取って貸借対照表を見た瞬間に、すぐに色分けができるようにしてください。総資産、負債・純資産合計については同じ数字ですが、4つの数字を活用する際に使う数字になります。

 

そのうえで、以下の矢印を加えてください。

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資産の部(左半分)においては、流動資産の一番上部に記載のある「現金預金」の割合が高いことが一番の安心材料である、ということは最低限おさえてください。総資産の金額に比して高ければ安全性の高い会社ですし、極端に低いようならば危険な会社ということになります。

負債の部(右半分)においては、固定負債の一番下部に記載のある「長期借入金」が一番の安心材料である、ということですが、これについては業種によりまちまちですので、以下の業種別に4つの数字が大きくなる代表的な業種をまとめましたので参考にしてください。

■流動資産の比率が高くなる業種

例:小売業、卸売業、サービス業全般
(理由:在庫商品等が1年以内に販売できるサイクルであり、大規模設備を有しない場合が多い)

■固定資産の比率が高くなる業種

例:製造業、運輸業、宿泊業、病院等 
(理由:土地建物や機械等の大規模設備を有していることが多い)

■流動負債の比率が高くなる業種

例:建設業、パッケージ型ソフトウェア開発業
(理由:工期や開発期間が1年以内で売掛先1件あたりの金額が大きく、前受金あるいは短期借入金が増加することが多い)

■固定負債の比率が高くなる業種

例:リース業、運輸業

(理由:車両機械等の入替が常時発生するため長期借入や長期支払手形が計上されていることが多い)

簡単にいえば、持ち物が多い会社ほど固定資産・負債が多い、ということです。矢印の図の参考までに頭の片隅に入れておいてください。

借金が多いのは悪い会社?

これまで書いた内容から、4つの数字は業種によって構成要素が様々であることがおわかり頂けたかと思います。
負債の部の最下部は「安心材料」と説明しましたが、例えば長期借入金の場合、返済も長期分割払いになっていることがほとんどですし、社債は中小企業の場合私募債がほとんどで償還期間は長期設定ですので、すぐには会社は潰れないという観点からいえば、やはり安心材料であるとは思います。
 

 

貸借対照表は、どこが、どのくらい変わったのか、その比率を見る書類

前回は貸借対照表について色分けを用いて簡単に説明しましたが、今回はもう少し踏み込みたいと思います。
貸借対照表は前回決算期、前々回の決算期と比較してこそ意味のある書類です。可能であれば、決算書を受領しに行く前に、前期の決算書の控えが銀行にあるのであれば、主要な科目だけでも頭に入れてから行くようにしましょう。そうすれば、初見でちょっとした違和感に気づくことができるはずです。慣れてきて、違和感にすぐ気づくことができるようになればもう立派な融資担当者になれるはずです。

それでは、4つの色分けした数字の中身を詳しく見ていきます。

Day3. 貸借対照表の流動資産のポイント

流動資産のポイント

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(数字は適当です。すみません。)

流動資産の科目でみるべきポイントは以下の3つです。

「現金預金」これだけで大半が決まる

会社は現金(キャッシュ)がなければ潰れてしまいます。不動産賃貸業等の特殊な業種を除いて、前期との比較で極端に現金預金が少なかった場合は「なぜ現金預金が少ないんだろう」という疑問符を頭に置いて、決算書の次のページにある損益計算書を見るようにしましょう。

一般的には現金預金は月商(売上高÷12)の3ヶ月分あれば安心、といわれていますが、1、2ヶ月分の現預金となっている中小企業も実際にはそれなりに多いです。それは、いざとなれば社長の個人預金を取り崩して資金繰りに充てることができるため、会社に現金預金を置いていないからです。
しかし、通常は現金預金が月商の1ヶ月未満であればかなり資金繰りが窮屈であることが考えられますので、その原因を突き止めなければなりません。可能であれば社長に聞いてみましょう。 

受取手形・売掛金は上位3先をとりあえず覚えておく

手形取引は商取引慣行において最近では減少傾向にありますので、売掛金に着目していきます。これも前期決算と比べて金額が増えているのか、減っているのかを見ていきます。
増えているのであれば増収、あるいは回収サイトの長期化が考えられますが、最初のうちは取引先の面前でそこまで分析できません。そこで以下のことを実践してください。 

まずは、前回決算期の決算書類のうち「売掛金(未収入金)の内訳書」に書いてある売掛先の上位3先の社名を覚えてください。そして実際に最新の決算書を受領した際に、前期の売掛先と「比較」してみるのです。
売掛金の上位先は、融資先にとって「超お得意様」です。前期と比べて上位先に変化がない場合は「今期も当社との結びつきがかなり強いんだな」と考えられますし、上位先に変動があれば「お得意様が変わったのかな?なぜ変わったのだろう?」と疑問を持つことができます。売掛先の変化に敏感になることで、経営者と目線を合わせることができ、社長との話題にもできると思います。

短期貸付金、仮払金はアウト

短期貸付金の発生には様々な要因がありますが、初心者であればこの項目があっただけでアウトと考えてもらって構わないと思います。貸付金は「会社が誰かに貸している」お金です。銀行から融資を受けているのにも関わらず、誰かにお金を貸すようなことをしている会社は、理由がどうあれ良くないことが多いですし、今後新規の融資を受けにくくなると思って良いと思います。(中小企業がよく利用する信用保証協会付融資の場合に特にこの勘定を嫌います)

なお、「貸付金」と「借入金」は似ていますが、全然違う科目ですので混乱しないようにしましょう。

 

Day4. 貸借対照表〜その他項目について一気にまとめ

固定資産のポイント

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固定資産の科目でみるべきポイントは以下の2つです。 

不動産がどれくらいあって、保険にどれだけ入っているかと思えばOK

固定資産は文字通り「固定」された資産が多いので、流動資産の見方と比べればざっくり見て構わないと思います。
ただし、大きな変化は見逃さないようにしてください。不動産は多くの会社で重大な投資であると考えられますので増減には特に気をつけましょう。もし増えていれば「営業所が増えたのかな?」と考えることができますし、減っていれば資産を売却したことも考えられます。
建物や機械については減価償却されますので初見では判断しづらいです。初心者であれば土地だけでも数字の増減に着目して増減を見逃さないようにしましょう。

 

やっぱり長期貸付金はアウト

前回説明したように貸付金はアウトです。1年以上の貸付金は長期貸付金として計上されていることがありますので見逃さないようにしましょう。

流動負債、固定負債編

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支払手形・買掛金は増減だけチェック

着目点は売掛金の項目で説明したのと同様です。買掛金上位3先は重要な仕入先ですので、その変化を見逃さないようにしましょう。

借入金の規模や役員借入金に注意!

ここには「短期借入金(1年以内要返済長期借入金を含む)」「役員借入金」「長期借入金」が計上されます。
役員借入金を除いた借入金額(有利子負債といいます)が、売上高を上回るようであれば、借入金が多すぎますので注意しましょう。ただし、固定資産や固定負債が比較的高くなる業種(製造業、病院、リース業、運輸業、不動産賃貸業等)は大規模な投資を行っていることが多いですので、有利子負債も高止まりする傾向にあります。


役員借入金は社長やその他の役員が会社に貸したお金をいいます。借入金であることは変わりませんが、返済を迫られる性質のお金ではないので、会社にとって「安心なお金」であると考えて構いません。
借入金明細については、当然前回決算書を事前に確認しておきましょう。特に借入上位先はメインバンクですので、事前に知っておかないといらぬ恥をかくことになりますので気をつけましょう。

 

最後の最後に・・純資産編

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とりあえず全体がマイナスでなければOK

融資初心者であればこのくらいの認識でよいかとおもいます。全体がマイナスの状態を「債務超過」といい、会社の資産をすべて売り払ったとしても負債が残る状態ですので、創業間もない会社でない限り、会社の財務状況は最悪といっていいです。

繰越利益剰余金がマイナスはちょいアウト

繰越利益剰余金は、過去の決算が赤字であればマイナスになりますし、黒字になるとプラスになります。銀行は赤字の会社にはお金を貸さないと思われがちですが、そんなことはありません。中小企業の80%は赤字と言われます。私が融資担当者だった時も多くの中小企業は赤字決算でしたが、融資を行わない、ということはありませんでした。

 

融資初心者であれば、純資産の部は、とりあえず数字がマイナスでなければOK!と思ってもらえば良いと思います。

Day5. 銀行は損益計算書をこう見ている!

損益計算書のみるべきポイントは「売上高」「経常利益」「減価償却費」「役員報酬」の4つ

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売上高は月商に引き直して使う

これは前回までにお伝えしたとおりです。単に売上が増えた、減ったではなく、対月商比で貸借対照表の現金預金や売掛金を見るようにしましょう。

銀行員が見るべき「利益」は経常利益

損益計算書には「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期利益」「(税引後)当期利益」と様々な利益があります。初心者であれば経常利益がプラスか、マイナスかに着目しましょう。

「経常」とは常に一定であるという意味で、災害損失や保険金収入等の一度限りで今後発生確率が低い数字は除かれています。銀行はあくまで、事業の継続性を判断できればいいわけですから、常日頃の実力が現れる経常利益を見れば良いのです。

ポイントは経常利益+減価償却費

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減価償却費は特殊な科目です。財務を勉強する際に最初のうちは理解に苦労するのですが、利益と同じくらい大切なものです。

減価償却費は簡単に言えば、費用として計上されるのにお金は減らないという性質を持っています。上記の経常利益をキャッシュの観点からみれば、お金が減らない減価償却費分が余計に引かれているので、当期に生み出したキャッシュをみるには経常利益に足す必要があります。

仮に経常利益がマイナスでも、減価償却費を足してプラスであれば、会計上赤字でもキャッシュに対する影響は軽微であると認められるので、銀行に対する見た目は変わってきます。

また、減価償却費が計上されないことがあります。税務上は減価償却費の計上は任意ですので、経常利益の見た目を良くするために、あえて減価償却しない選択もできるのです。

しかし、会計上は本来計上すべきものですので、見た目を良くするためだけに減価償却しないのは印象最悪です。大幅に資産が増加するなどの特殊要因がない限りは、減価償却費は前年比でほぼ同等となりますので、変化の見極めがしやすいと思います。

役員報酬の増減をみる

役員報酬は社長一族への給与ですが、これが前回決算より増えているか、減っているかは重要です。社長は悪意を持ってすれば会社を食い物にできる立場にあります。銀行の融資金が多額の役員報酬に充てられていないかということに目を光らせてください。

 

まとめ

長丁場お疲れさまでした!

目次まで戻っていただければポイントだけまとめてあります。

ぜひご活用ください。