こんにちは、元銀行員りゅうです。
みなさん、「年金担保融資」って知っていますか?
今回は年金事務所の方や銀行員にはおなじみの、国の悪しき制度について解説します。
- 年金担保融資は年金の前借り
- なぜ銀行が窓口になるのか疑問
- 借りる人の人生が垣間見れる
- 定年してセカンドライフ歩むひと
- 事業仕分けで「廃止」と判定されるも・・・
- 年担利用者と融資残高の推移
- 高齢社会になった今、現役世代はどうするか
年金担保融資は年金の前借り
年金担保融資(年担「ねんたん」といいます)は、読んで字のごとく年金を担保にして融資を受ける国の制度です。
具体的には、基礎年金、遺族年金などの「年金証書」現物(年金受給権)を銀行が担保として預かって、将来受け取る年金を前倒しで受け取ることができる制度です。
民間では年金を担保に融資を受けることは法律で禁止されていますが、この制度に限って認められています。障害年金、遺族年金などもありますが、基本的には65歳以上の方が多く利用する制度です。
融資という名がついていますが、銀行が行うのは本業の貸付業務ではなく、窓口事務の代理です。銀行では窓口で書類を受付して、その書類を福祉医療機構に書類を送るだけです。融資代わり金の振込や債権管理なんかは基本的に機構が行います。
なぜ銀行が窓口になるのか疑問
事務の代理なので、機構から「取扱い手数料」が入ってくるものの、割に合いません。
必要書類や保証人、保険の話、融資が受けられるタイミングは、お年寄りが直ぐに理解できないほど複雑ですし、厚生労働省管轄の事業なんで、その代理である銀行は慎重に取り扱う必要があります。
なにより、お年寄りは借入契約書その他もろもろの自筆が困難なことが多く、受付〜お帰りまで相当の時間(1時間〜長くて3時間)くらいかかってしまいます。書類も相当ありますから、手が痛くなったり目が見えなくなったりして、しょっちゅう中断します。
銀行員は自社商品の売上を伸ばさなければなりません。ノルマ達成しないと詰められるので必死なんです。
そこでアポなしで年担のお客さんが来店すると、当然窓口優先ですから手をつけている仕事を放り出して、この年担の受付を行わなければならなくなります。
午前が年担の問い合わせで終わりました。。
— れーん (@Cute61Ren) 2015, 12月 16
今日15時前にまさかの年金担保が来て、あまりにイライラしすぎてお客さんと話しながら無意識にささくれ剥いて血だらけになった+お客さんが小指の裏に朱肉ついたまま書類書き進めたせいで契約書が大変なことになった笑
— さゆ (@sayu003838) 2015, 3月 17
借りる人の人生が垣間見れる
さて話は変わって、銀行員やっていると、お金を通して借りる人の人生を見ることになります。
融資するわけですから、お客さんには融資金の使い道を申告してもらう必要があります。なのでお客さんに詳しく聞いてみるんですが、大半の使い道は「生活費」なんですね。
生活費って・・・本来、年金は生活費にあてられるべきものです。そして年担中は年金支給ストップします。つまり、年担使うと生活原資が入ってこなくなるんです。前借りしたって、そのツケはいつかまわってくるんです。
詐欺などの特殊事情を除いて、銀行の勝手な判断でお客さんの意思を止めるわけにはいきませんから、そのまま受付することになります。ぼくは「その融資は本当にお客さんにとって役立つ融資なのか?」毎回疑問でした。
定年してセカンドライフ歩むひと
使い道といえば・・・なかには、借りたお金で単身でタイに移住するという人もいました。
何年か前はバンコク郊外であれば物価が安く、少しのお金があれば日本に住むより裕福な生活ができたそうです。そのお客さんは、リタイアした人たちが集まる村のようなものがあるらしく、そこに移住すると楽しそうに話していました。
これは10年も前の話ではないです。今ではタイってそこそこ物価も上がってきています。融資したお客さんは今はどうなっているかわかりません・・・。
事業仕分けで「廃止」と判定されるも・・・
年担については5年前、民主党時代の閣議決定で「廃止」されることになっています。
蓮舫さんが事業仕分けしてくれました。
忘れちゃダメだな~ #蓮舫 と #民主党 お前ら忘れてると思うけど、今回ノーベル賞のニュートリノ研究、蓮舫と民主が「事業仕分」した施設だぞ http://t.co/t67Smpqr7S pic.twitter.com/6sgB0bW7GU
— 仁義 (@jingi99) 2015, 10月 7
事業仕分けが決定して、銀行内では大いに盛り上がったことを覚えています。
「あの忌まわしき年担がなくなる!蓮舫ありがとう!」と。
しかし、いまだに年担はあります。
そして、ほとんど何も変わっていない。
年担利用者と融資残高の推移
↑ 融資残高「金額」
↑融資残高「件数」
「融資金額」はちょっとずつ減少傾向にあります。これは仮にも閣議で廃止が決定しているので、機構のほうで制度を変えて融資限度額を少しずつ減らしていった結果かと考えられます。
一方、「融資件数」は依然ほぼ一定で、利用者が多いことがわかります。
一度年金担保融資を使い出すと、返済が終わる頃には再び融資の必要性が出てきて、ずっと反復利用せざるを得なくなるんです。一度使うと二度と抜け出せない制度といえます。廃止が決定したとしても急には止められなさそうです。
高齢社会になった今、現役世代はどうするか
基本的に銀行融資は年金以外の安定した定期収入がないと受けられません。
でも、高齢になれば年金以外の定期収入がない人が大半だと思います。その受け皿として年担ができたかとは思うのですが、その運用もただラットレースを助長するように思います。
そもそも、これからの世代が一定の年金が受けられるかどうかわかりませんからね。おそらく長期間働き続けなければなりません。
ある程度無理をして定年まで頑張って蓄えを作って、老後は貯蓄を取り崩していく人生より、健康寿命を重視して高齢になっても小遣い程度を稼ぐ人生のほうが生きやすいかもしれません。